サイア2023年

サイアの表紙絵をブログに上げるのをすっかり失念しておりました…。まとめて3回分上げます!

ジェネティクス北海道 サイア令和5年夏号

ジェネティクス北海道 サイア令和5年秋号

ジェネティクス北海道 サイア令和5年冬号

夏号は、「むしゃむしゃ和牛子牛」ご近所の大出農場さんの和牛の子牛を描かせてもらいました。かわいいですね^^

秋号、冬号は、連続してジェネティクス北海道さんのホルスタイン種牛です。
「カプレゼ」と、「メロディ」
どちらもヤングサイア。今まで描いてきた種牛に比べると、若くてあどけない感じです。
ヤングサイアというのは、ゲノムの分析により、今までは娘牛の結果を見るまではっきりしなかった種牛の遺伝的な能力が、検査によってわかるようになる、という技術です(私も素人なので説明が微妙に違っている可能性があります)
今までその種牛の娘が生まれて、その娘がまた子を産んで泌乳するまでわからなかった事が、その種牛が生まれて検査を受けた時点でわかる、という事ですね。
知らない間にどんどん畜産の技術も更新されていくのですね。

2024年も、ジェネティクス北海道さんの表紙でかわいい牛を描きたいです!
がんばります~!

青森へ行ってきました。

だいぶ時間が経ってしまいましたが、石巻へ行った後、青森へ行ってきました。
思えば父の実家が札幌にあったため、幼少期に上野発の夜行列車と青函連絡船を乗り継いでいく旅を何度かしており、まったく縁のない土地ではなかったのですよね、青森。

一番の目的は何かというと、奈良美智さんの個展を青森県立美術館へ見に行く事でした。

奈良さんは、もちろん大学時代から知っている憧れのスーパースターでありますが、斜里や中標津、別海という身近な土地で開催されてたライブペインティングやトークのイベントに参加させてもらったり。そんなご縁で直接お会いできて作品にアドバイスを頂いたり、トビウ芸術祭に呼んでいただいたり、ファンであり、心の師匠みたいな作家さんです。

大学時代の私は登山とバイトに明け暮れていたので、そのころの奈良さんの展示をもったいない事に見逃していたはずですが、初めて作品を見たのは北海道に来てから別の展示を見に行った時に横浜美術館で見た「春少女」だったと思います。

奈良さんの作品に対して持っていた「ちょっと怒った感じの女の子の絵」というイメージがくずれて、吸い込まれるようにその絵の前で立ち止まったのを覚えています。

その後那須にある個人美術館のN’s Yard、トビウ芸術祭、豊田市美術館で開催された「奈良美智 for bitter or worse」展を見に行くなど、継続してその作品を見せてもらっています。

青森駅に到着した日の夕方は雪降りで、屋根のついている中心街をホテルへ向かう途中も屋根の意味がないくらい、大粒の雪が吹き付けていました。
昼までいた仙台には全く雪がなかったのに!
これが青森。

翌朝、また大粒の雪が降りしきる中、青森駅からバスに乗って青森県立美術館へ。

青森県立美術館。雪が降りすぎで遠景は撮れず

運転手さんよく運転できるな…ってくらい雪でした。
私はこんなこともあろうかとスノーブーツで準備万端でしたが、きっと都会から来たであろう一緒のバスのお客さんは普通にスニーカーだったり…それはこんな雪想像できないよね。

開館時間前のバスで行ったので、入り口で少しただただ真っ白な雪原(夏は多分庭)を見つめて待ちました…青森の雪すごい。私の知っている北海道の東側とは違う、すべてを覆い隠すような湿った大粒の降りしきる雪。それなのに(だからこそ)非常にしんとした、音のない世界。

チケットを買って展示室へ入ると大きなシャガールの「アレコ」にまず度肝を抜かれ、あまり下調べしていかなかったので…それについてはまた後で触れることとします(多分)。

そして「奈良美智 The Beginning Place ここから」展。

最初の部屋は「家」と題されたセクション。
最初期の作品が多く飾られています。
頻出する赤い屋根の家と、良く知られた女の子の絵になる前の、口を開けて歯を出した人物、動物たちなんだかどこか所在なさげな。
「カッチョのある風景」は武蔵野美大在学中に描いた絵だそうです。

「カッチョのある風景」とこけし

次の「積層の時空」の部屋ではポスターにもなっている「Midnight Tears」をはじめ最新の作品たちが。

私は奈良さんの作品の中ですごく好きなのは2011年以降の正面の少女像なのですが、
「Midnight Tears」は今まで見た作品の中で一番と言っていいくらいぐっとくる絵でした。
ほの暗い背景の中に、少女の形の何かが目に涙を湛えてただこちらを見ている。
圧倒されるような大きさで。
先ほど見た初期作品と同じように歯を食いしばって、怒っているのか、悲しんでいるのか、もしかしたら何かを反芻しているのか、、わからない。
でも少女とも何か他の動物とも、もしくは何か魂そのもののような存在にも見えるその絵の前から離れられなくて、ずいぶん長い事そこにいたように思います(そういう人のためにベンチが置いてある)。
絵画的な見る喜びもすごくて、瞳の中の光とか、ところどころほどけていきそうな輪郭とか、その快楽と、彼女の叫びとも祈りともいえない表情との間で、呆然としてしまう。
この絵は親しみやすさというよりもむしろ、遠くて尊い存在として、どこか静かな場所にあって、会いたい時に会いにいけたらいいな…そんな作品。

Midnight Tears

なんかもうこれを見れただけで来たかいがあったなと思いました。外は雪で真っ白なのに、この絵の色彩と熱で温まったような気がしました。

これで全然まだ序盤なんですが。

そうやって見る人によっていろんな見方の余地がある作品群もあれば、非常にはっきりとメッセージを掲げていたのは「No War」の部屋でしょうか。

子供のころからアメリカのロックやフォークに影響を受けたという奈良さん。
以前奈良さんがDJをしていたラジオ番組で私はそれらの音楽を聴きました。それまではほとんど知らなかった…。
そこに込められていた反戦のメッセージ。
当時はベトナム戦争の事がうたわれていたのかもしれませんが。
今…この戦争だらけの世の中で、今一度それらの声に耳を傾けるべきなのでしょう。
権力のために多くの力なき人が死んでいく戦争に、どんな理由があったとしても、NOと強く言い続けなければ。私たちもあっという間に他人事ではなくなってしまうのかもしれません。
奈良さんの絵は直接的に悲惨な状況が描かれているわけではありませんが、戦闘機、シェルター、炎、そして女の子、犬たち、言葉。
奈良さんの集めたかわいらしいオブジェたち、戦争とは、そして戦争を良しとする価値観は、こういうものを簡単に蹂躙していく。弱く、優しい、繊細なものたちを。
一部屋上から下までそんなメッセージで満ちた、インスタレーションのような展示室でした。

No Warの部屋



アフガニスタンの写真、トビウで見た作品や、山子に再開できたり、手元で作った塑像をすごく拡大した迫力ある立体、奈良さんが弘前の高校生時代に仲間と作ったロック喫茶の再現など、奈良さんという作家の仕事の進化と、その中でずっと変わらないものを体感する、見応えある展覧会でした。

ところでまだ終わりではないのですね。
おそらく普段は常設展示のコーナーも奈良さんの個展の続きとなっていました。
常設の奈良さんの作品、プラス棟方志功の作品も一緒に飾られていたのは驚きでした。
考えてみたらだいぶ世代は違うでしょうが、同じ青森出身で、女性を描いていたり文字も画面に取り入れたりと共通点が多いのかもしれません。

奈良美智と棟方志功のあいだ、の部屋。向かい合う猫?



あおもり犬にも初めて会う事ができ。
天井があいた形で地下に設置してあるので、このまま雪に埋まっていきそう、、そんな感じでした。
実物を見ると下半身が埋まっていたり、伏し目がちだったり、ただかわいいだけじゃない、なんていうんでしょう…哀愁というか、包容力というか、すごく不思議な作品でした。

雪とあおもり犬



外にある八角堂もお忘れなく!森の子がいますので。那須のN’s Yardで見たのと、先日虎ノ門ヒルズで見たのも、また違う印象。

Miss Forest / 森の子


常設展も良かったのです。棟方志功あり、また青森出身のウルトラマンのデザインで知られる成田亨作品、寺山修司の舞台のポスターも見応えありました。
もう終わっちゃうようですが、常設展内企画の今純三展も良かったです。1893年生まれ、兄の今和次郎が考案した「考現学」調査に協力し、当時の青森の風俗を詳細にスケッチしたという。繊細な銅版画の中に昭和初期の青森が丁寧描かれています。当時はそんなに写真は気軽なものじゃなかったでしょうから、これもまた貴重な当時を知る資料ですよね。

シャガールは、たまたま上野で梱包終わった後時間があったので見ることができた国立西洋美術館の「キュビズム展」で見てすごくひっかかっていたので、4枚の巨大な背景画の「アレコ」をみた瞬間運命かと思いましたね。圧倒的。

マルク・シャガール バレエ「アレコ」の舞台背景画のうちの一枚



その後ミュージアムショップに寄ったりして、(グッズもカタログもめっちゃ良いのでスーツケースをあけていくべき)、一度バスで青森駅へ戻り、棟方志功記念館へ向かいました。
後から気づいたのですが、乗り継がなくても県美から棟方志功記念館まで行ける(青森駅は経由するのでショートカットではなくそこそこ時間はかかる)ねぶたん号というバスがあったのですね。本数少ないようですが。もしこれから行かれる方はチェックされると良いかもしれません。

雪の中の棟方志功記念館
内部の展示。代表作がゆっくり見られます。


棟方志功記念館、今年閉館してしまうという噂を聞いて行ってみたいと思っていたのでした。
同じ木版画作家のはしくれとして、伝説的作家である棟方志功の事はいつも気になる存在でした。
11月に東京近代美術館で生誕120周年の大規模個展も見たばかりで(青森県美から巡回した展覧会だったらしい)
行ってみるとそこは小さな美術館でしたが。
とてもゆっくり見ることができて(国立近美は混雑でゆっくり見られなかった)、棟方志功の記録映画も全部見て、そのエネルギーに圧倒され。晩年、下絵板に直接描いていたんですね…もう体が版画に特化してる。
奈良さんの最初期の「カッチョのある風景」に出てきたカッチョらしきものもその映像の中で見ることができました。

さっき奈良さんと棟方志功の共通点にちょっと触れましたが、なんていうか二人とも絵はぱっと見明るいのに、実はある種の悲しみというか、祈りのようなものが底にながれているような感じが私は勝手にしていて。森羅万象に向ける畏れ、敬意、そしてこの複雑な世界で生きる人間や動物たちの苦しみや痛みへの祈り。たとえば同じ東北の作家の宮沢賢治のような。

全てを覆いつくす無音の雪の重さに閉ざされる冬。

そして夏の美しい日の喜びもまたひとしおなのかもしれない。

青森についた夕方、駅の近くの「ワ・ラッセ」というねぶた祭りに関する展示をする場所を見学しました。
斜里のねぷた祭りは見たことがあったので(斜里と弘前は姉妹都市これも北国の悲しい事件を発端とした関係性)、なんとなくねぶた絵と祭囃子には親しみがあったのですが、こんな事言ったら斜里の人に怒られるけど、だいぶ規模が違う。
まず山車が大きいし、めっちゃ派手。どうやら青森人のねぶたにかける情熱がものすごい。
これもこの冬の厳しさあってかもしれない。コントラスト。

ワ・ラッセに展示されていた、去年賞をとったねぶた。



棟方志功は親戚でねぶた作りをしてる人がいたそうで、自分の作品へのねぶた祭りの影響を自ら言及してもいて。確かに言われてみたらずいぶん祭りのエネルギーも含めねぶた絵と共通点がある気がする。後年のカラー作品なども。

作家の生まれた土地でその人の作品を見るとは、こんなにも贅沢な事なんだなという事を、かみしめる体験だったように思います。どちらの展示もとてもゆっくり見られましたし。
奈良さんの個展を東京でやったら、人込みでこんなゆっくり絵の前で立ち止まるなんてきっとできない。

その人がこんな場所で、この時代に、こんな本や音楽に影響を受けてはぐくまれた感性、というのをしっかり見せてもらったけれど、
私は東京で育って今北海道に住んでいる自分の感性でそれをキャッチするほかなく。
もしかしたら全然見当違いのものを受け取ったり想像したりしているかもしれないけど、それでもいいのかもしれないとも思いました。
私は私の生まれ育つ過程で培った自分の感性を信じる。そしてそこに安住せずに常に問い直し、丁寧に磨き続ける。これこそが奈良さんから教わった事でもあるような気がします。

それを受け取ってはぐくまれた誰かの感性が、また誰かに影響を与えていく。
受け取ったものを大事に育てていきたい、そして自分も頑張ろうと思えた旅でした。
そして私も最新作が一番すごいと言われるような作家になりたい。
すっごく大変だと思うけど…!!


またりんごの季節に来てみたい、青森。
この後弘前へも行ったのですが長くなりすぎたので、SNSにまとめようかな。

青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸から津軽海峡を臨む






2023年もお世話になりました。

斜里岳と牛

2023年も、あっという間に大みそか。

振り返ってみれば、3月のNorth Print 展に始まり、小清水町の新庁舎ワタシノに作品を設置して頂いたり、香港のQuiet Galleryでグループ展、東京都美術館での「いのちをうつす」展に参加させて頂いたり。そして例年通りの荒川版画美術館、東一条ギャラリー、網走市立美術館さんにもお世話になりつつ。

本当にありがたい事に、今までずっと続けてこれたことが実ったような一年でした。

夏は都美術館で展示した新しい大作づくりでいっぱいでしたが反省点もいろいろあり、それを踏まえつつ、来年はまた新しい作品作りに励みたいと思います。
さらに研鑽を重ね、良い作品が作れるように精進したいです。
そして新しい事にもチャレンジしていきたい!

本当に本当に、今年もたくさんの方々に世話にお世話になりました。
皆様心から、ありがとうございました。
ブログやSNS通じて応援して下さった皆様も。

どうぞ、良いお年をお迎えくださいませ。

来年は、どうか平和で、皆様に良いことがたくさんある一年でありますように。

開催中の東京都美術館の「いのちをうつすー菌類、植物、動物、人間」展の会期は年明け2024年1月4日から、8日までの残り5日となっております。
残り僅かの会期ですが、もし行かれる方は開館日など注意してお越しくださいませ。

https://www.tobikan.jp/exhibition/2023_uenoartistproject.html

今年の荒川版画美術館の作品展示が終了しました。

2023年の荒川版画美術館の私の作品展示は終了しました。
また来年の春に!
レストラン牧舎は12月25に日まで営業していますよ~。

また、東一条ギャラリーの冬至祭も終了致しました。
温かく、楽しい展示でした。来て下さった方、ギャラリーのお二人、ありがとうございました。

雪が積もった荒川版画美術館。
東一条ギャラリーの展示風景。グッズなど展示して頂きました。

いのちをうつす展、会期残りわずかになりました。

ついこの間始まったと思っていたのですが、あっという間に「いのちをうつす」展の会期が残り僅かとなっております。
年内は12月19、20日の2日間、21日から1月3日まで美術館が休館になりまして、年が明けて1月4日~8日まで。年末年始のお休みが長いので、数えてみたら残りの開催日は7日間ですね。

バタバタしていて展覧会自体の感想を書けていなかったので。

対象物への愛と好奇心、それに冷静な観察眼が描き出す作品たちは見応えたっぷりで、本当にゆっくり時間をかけてみてほしい展覧会になっております。

小林路子さんのきのこの絵が使われたエントランスのポスター

会場のエスカレーターを下りて、すぐ目に入るのは小林路子さんのきのこの絵画。
都内出身の小林さんは、本の仕事で偶然きのこに出会ったとの事。
繊細に描かれたきのこと、生えている環境の落ち葉や木の肌、時には虫たち。
それに一つの絵ごとに添えられた小林さんの文章がとても秀逸なのです。
基本描かれたきのこの説明なのですが、きのこに魅せられ観察し、そのきのこを追い、時には口にし、よくよく知る人ならではのユーモアがにじんだ文章についクスっとさせられてしまいます。
それにしても、世の中にはなんと豊かなきのこの世界があることか。
たまにみかけるきのこから、見たこともないような不思議なかたちのきのこ、身近なシイタケまで…。見とれたり感心したりしながらあっという間に時間が過ぎていきます。

小林さんのきのこと並行して展示されているのが、内山春雄さんのバードカービング。
本物そっくりに彫られた小鳥やライチョウたち。
実は野鳥って身近なわりに、あまり近くでまじまじと見る機会ってないですよね。スズメですら。鳥ってこんな形で、こんな風に羽が重なっているのか…それに何より鳥がカワイイ。
たまたま一緒に見ていたお客さんの親子も「可愛い可愛い」言いながら見ておりました。
奥に進むともっと大きな鳥の彫刻が。これはなんと、「デコイ」なんだそう。
恥ずかしながら初めて知りましたが、実際にこの彫刻を増やして自然環境に置いて、その鳥が仲間がいると間違って来ることで、よりよい環境に移ってもらったり、そういう目的で使用されたのだそうです(調べてみたら昔は猟のおとりとして使われたそうですね)。
アホウドリ、こんなに大きいんだなあ…。
アホウドリの乱獲の話をそういえば川﨑秋子さんの小説で読んで大変衝撃を受けたのですが、その後デコイなども使って保護が行われていたと知りなんだかほっとしました。
トキなどの珍しい鳥も、こうしてリアルにバードカービングにしてもらう事で、すごく身近に感じることができて、なんだか嬉しかったです。
内山さんの作品はまだあるのですが、展示順に紹介していこうと思いますので、また後程。

内山さんのデコイと一緒に展示されているのが、辻永さんの植物画です。
和紙に描かれた繊細な植物画。
直接筆で描かれた線を見ていると、本当にずっと植物を見て、よく描いていたんだろうという事が伝わってきます。なにより植物が好きだったであろうことも。
辻さんは1884年生まれ。1974年に亡くなっています。
15歳から植物を描き始め、植物学者になるか迷った事もあったそう。
そこいらに生えている雑草も、旅先の珍しい植物も、同じ目線で丁寧に描かれた絵は、等しく尊い植物たちの姿形をはっきりと私たちの目に知覚させてくれるようでした。
辻さんは弟さんと渋谷で山羊園をされていた時期があるそうで、その時期は山羊の油絵を描き、山羊の画家と呼ばれていたこともあったそう。
山羊の油絵も2点飾られていましたが、自然の光の中でのびのびと暮らす山羊たちが優しい色彩で描かれていて、それもすごく好きでした。

いのちをうつす展図録のカバーは辻永さんの植物画をレイアウトしたもの。色は薄く溶いた油絵具だそう。

そしてエスカレーターをもう一段下りたフロア。
最初に目に入るのは「いのちをうつす」展のメインビジュアルにもなっている今井壽恵さんの写真です。
美しい競走馬たちの肖像。
牧場で、晴れの舞台で、全身の筋肉を躍動させて走る馬たちの姿を幻想的なタッチで描き出す今井壽恵さんの写真は、馬というものをまた新しい視点から見せてくれた気がします。
私自身は意外と馬との密接な接点はなく、あまり馬の事はよくわからないのですが、その気高いともいえる立ち姿に、多くの人が魅せられるのもわかるな…と思いました。
それとこの一瞬の姿をとらえ、フィルムの加工で現実ならざる背景と共にある馬たちのなんとも言えない存在感は本当に独特で、印象に残る写真たちです。
今井さんは写真家として活動し始めてから、交通事故にあい、一時期視力を失ったとか。その回復してきた頃に映画で「アラビアのロレンス」を見て、そこに映る馬の姿に魅せられたのだそうです。人生のテーマとの出会いは、突然に訪れる。

今井壽恵さんの作品「対称」

その馬たちの奥に、恐縮ながら私の作品の牛たちがいて、その向こうにいるのが(居る、と言いたくなります)阿部知暁さんのゴリラの絵画たち。
まさにゴリラたちの肖像画というべき、大きな正方形のキャンバスに、ちゃんと名前の付いた個性豊かなゴリラたちが描かれています。
驚いたのは、ゴリラの姿形の個体差!当たり前と言えば当たり前の話ですが、みんなしっかり顔も体型も違うんですよね。
人間だって牛だって違うんだから、ゴリラだって違うのは当然ですが、知らない事というのは本当に解像度が低いものですね。
各々の性格までにじみ出るような、個性的なゴリラたちの向かいに、絵本「ゴリラが胸をたたくわけ」(山際寿一・文 阿部知暁・絵)の原画が展示してあります。
この絵本がまたとても良いのです。程よい具合にデフォルメされたゴリラたちが活き活きと描かれていてとっても魅力的。
それに内容も素晴らしい…。いかにも怖そうな見た目、と誤解されがちなゴリラのなんとも賢く、好奇心に満ち、平和的な生態。
人間も、少しゴリラを見習った方がいいかもしれませんね…。
ちなみにこちらの絵本はミュージアムショップの方で販売されておりますよ!

阿部さんのゴリラを描くきっかけになったともいえる、上野動物園に最初に来たゴリラ「ブルブル」

そして最後にまた内山春雄さんの作品。
タッチカービングという、触ることができる白い鳥の彫刻がたくさん並んでいます。
そして、貸し出される機器で、それらの鳥たちの鳴き声も聞くことができます。
目の見えない方々はもちろん、私たちも鳥に触れる機会なんてめったにないですから、なでたり鳴き声をきいたりしているとあっという間に時間が過ぎていきます…!

内山春雄さんのタッチカービング作品。繊細な羽の重なりなどさわって確かめられるのは貴重な機会。

他の作家さんの作品を見たり、図録の文章を読んだりして、生涯をかけて追及したくなるようなテーマに出会えることのありがたさを改めて感じましたし、私ももっと続けていって、作品をどんどん蓄積していきたいと改めて思いました。

私が牛というテーマに出会ったのは、予備校時代から続けていた内面世界を描くような絵に限界を感じていた時でした。世の中の幻想的な絵画に憧れ、真似をしてみたものの、私の内面にそんな作家たちの描くような世界は無かったと、気が付くのに3年くらいかかってしまいましたね。
ワンダーフォーゲル部で登山を続けるうちに、ただそこにある自然(自分の身体も含め)が実はとても観察のしがいのある、世界を知るための第一歩ではと思うようになりました。
山頂から見る、宇宙とつながっているような広々とした世界の一部である自分、という感覚が生まれた時に牛に出会い、牛という一つの動物を描く事もまた意味のある事であるように感じました。
きのこの小林さんもゴリラの阿部さんも、幻想的な絵画を描いていたところから一つのテーマを追求するに至ったと書いてあり、ちょっと共通しているな、と思いました。不思議ですね。
他の作家さんたちともゆっくりお話ししてみたかったです。

同時開催の「動物園にて」展もすごく興味深いので、ぜひ見て頂きたいです!
上野動物園ができた経緯や、戦争中の動物園の話など、普段意識していなかった動物園の歴史に触れ、動物と人間の関係性に思いを馳せることのできる展覧会となっています。

なごり惜しいですが、残りの会期、作品たちが皆様に見て頂けますように。







東京都美術館「いのちをうつす―菌類、植物、動物、人間」展始まりました

11月16日から、東京都美術館にて上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつすー菌類、植物、動物、人間」が始まりました。

上野公園内、上野動物園のお隣の東京都美術館。大きな企画展が行われている展示室の入り口の右手側に入り口があります(公募展の展示室もたくさんあるので、迷われたときは係の方に聞いてみてくださいね)。

エスカレーターで地下に下りながら2フロアーに渡って展示室があります。

私の作品は一番下のギャラリーAという場所にあります。

今回の私の展示作品は10点。最新作「891全身図」は阿部知暁さんのゴリラの作品の奥にありますよ…!

なんとか間に合いました…!黒々と、大きな牛です。

きのこの絵の小林路子さん、植物画の辻永さん、バードカービングの内山春雄さん、馬の写真の今井壽恵さん、ゴリラの絵画の阿部知暁さん、どの作家さんの作品も対象に肉迫したものばかりで、とても見応えのある展覧会となっています。ゆっくり時間をもって観覧するのがお勧めです!
同時開催の「動物園にて」展も、日本の動物園の歴史、人と動物の関わりを振り返ることのできる大変興味深い展覧会となっております。

「いのちをうつす」展の図録もございます。嬉しいですね!
会場入り口で1800円で販売しております。私の展示作品10点も掲載されています。

ミュージアムショップでは、関連グッズも販売されています。
私の手ぬぐい、ポストカード、絵本「おかあさん牛からのおくりもの」も販売して頂いております!

11月18日には関連イベントとしまして「ウシと人間」というテーマで東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀先生と対談させていただきました。

私が一方的に先生のご著書「ウシの動物学」のファンであるという事でオファーさせて頂いたのですが…、正直なところ、私ごときで先生のお相手が務まるのかと、戦々恐々としておりました。事前に打ち合わせで先生の研究室を訪問させて頂き、とても気さくにお話させて頂いたので、ちょっとホッとしつつもやっぱり緊張して迎えた当日でした。

ひたすら遠藤先生にリードして頂いて、なんとか2時間のトークを終えることができました。
先生のユーモアを交えたお話に私も引きこまれつつ、慣れない私の話を引き出していただき、本当にありがたかったです…!
長年気になっていた牛の胸垂がなんのためにあるのかという質問もできました。それで半日講義できるとおっしゃっていた先生…その講義を本当に聞いてみたい。
様々な種類の動物の遺体と日々向き合っている先生のお話は大変に興味深く、絵を描く私と解剖学の、対象をよく見る、という共通点なども感じたり…。
牛の話、生物の話、家畜と人の関わりの話、人生の話など…いろいろなお話ができました。

正直に言うと緊張しすぎていてあまり話した内容を全部は覚えていないのですが、聞いてくださった方にはおおむね好評であったようなので、良かったです…!

遠藤秀紀先生、お忙しい中本当にありがとうございました。
そして会場に来て下さった皆様も、心からありがとうございました!
来場者の皆様があたたかく見守ってくださって、心強かったです。

そして遠藤先生はこのたびミステリー小説家としてデビューされます!
「人探し」
第44回小説推理新人賞受賞作 双葉社より12月20日刊行
https://www.futabasha.co.jp/book/97845752470390000000?type=1

知の巨人の好奇心は本当に計り知れないですね…絶対買って読みます!!

ちなみに今回遠藤先生の他の著作なども拝読し、先生の作られた標本がたくさんある国立科学博物館の常設展、40年ぶりに上野動物園にも行ってみました(遠藤先生は笹をつかむパンダの指の構造を発見された事でも有名です)。
人類を含めた地球上の生き物の進化の歴史と、動物をよくよく観察し、解剖し、生き物の形の不思議と歴史をひとつひとつ解き明かしてきた人類の自然科学の積み重ねに思いを馳せることができ、本当に良い機会になりました。

という事で、1月8日までの会期、どうぞよろしくお願い致します。https://www.tobikan.jp/exhibition/2023_uenoartistproject.html

企画展示室で開催中の「永遠の都ローマ展」は12月10日まで。
こちらも日本ではめったに見られないローマの名作が揃っています!
ローマ展にも興味のある方はお急ぎくださいね。

小清水町防災拠点型複合庁舎ワタシノに作品が展示されています

私が住んでいる北海道小清水町に新しく完成した、防災拠点型複合庁舎ワタシノに、私の作品「701全身図」が展示されています。

「701全身図」は2018年の木版画作品で大きさは182×273㎝、神田日勝記念美術館での展示の時に作ったものです。

ワタシノは小清水町の役場新庁舎と、カフェやフィットネスジム、コインランドリーなどを併設し、災害時には避難施設にもなるという、役場に併設した複合機能施設としては日本初・フェーズフリー認証施設なんだそうです。
オープンは5月28日。とってもおしゃれで親しみやすい建物で、こんなに素敵な場所が小清水にできるなんて町民として嬉しいです。

https://watashino-koshimizu.jp/

ワタシノに作品を飾っていただけて、本当に光栄です。
今後この場所で、701が町民の皆様に親しんでいただけると嬉しいです。

なお、この作品は建設主体の施工者である、北興・早水・斜里特定建設工事共同企業体様にご寄贈頂きました。ありがとうございました!

展示場所は国道391号沿いの、B1F部分のギャラリースペースです。
下の写真の左側の入り口から入るとすぐですが、1Fの入り口から入った場合は階段を下りてください。

役場の営業日以外にもカフェやフィットネスジムが開店している時間なら中に入れるそうですので、9時~18時ならどの曜日でも。平日は21時まで開いているようですよ。

写真は夕方~夜ですが、昼間の天気の良いときに見ると今のところかなり額のアクリルの反射が強くて見づらい状態です。対策してくださるそうですので、また進展がありましたらお知らせ致しますね。

今年も佐伯農場荒川版画美術館の展示がスタートしました。

今年も佐伯農場荒川版画美術館で作品を展示させていただきます。

春の佐伯農場へ、ぜひお越しくださいね!

レストラン牧舎は水、木曜日は定休日です。

臨時休業日など最新のお知らせは牧舎のさとえさんの instagramでチェックしてくださいね。

佐伯農場 北海道標津郡中標津町俣落2000-8

大きな作品は去年と変わりませんが、小品が少し入れ替わっています
まだ春浅い、荒川版画美術館
宮島義清さんの作品
牧舎カレー!

2022年、ありがとうございました。

威勢よく餌を食べる牛

2022年もあっという間に大みそかになってしまいました。

今年は例年通りの荒川版画美術館での展示に始まり、那須の大黒屋さん、母校の武蔵野美術大学のgFAL、南区芸術祭にギャラリーレタラファイナル展、いつもの東一条ギャラリー小さな絵展、冬至祭。ずいぶんたくさんの作品を見ていただく機会に恵まれ、忙しくも本当にありがたい一年だったと思います。

お世話になった皆様、展示を見に来て下さった皆様、作品をご購入下さった皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!

来年はまたお知らせしますが、楽しみな展示も複数ございますので、また気合を入れて制作に励んでいきたいです。

今年は世の中的には大変な一年でしたが…どうか来年は、平和な一年になりますように。

年末年始は牛乳を飲みつつ、世界の平和を祈りたいと思います。

最後になってしまいましたが、無事会期終了したギャラリーレタラファイナル展の写真を。

2013年に、まだこちらに移住したてで何者でもない私の個展を開いてくださったレタラさん。

2回の個展と、2+2北海道・光州美術交流展2020にも参加させて頂きました。

レタラで本当にたくさんの出会いがあり、励まされる事ばかりでした。

たまに札幌に出かけた時に、レタラによって展覧会を見て、泉さんとお話するのもとても楽しみでした。

ギャラリーレタラの吉田さん、泉さん、本当にお世話になりました!!

ここで育てて頂いた恩を胸に、さらに精進していきたいと思います。

ギャラリーレタラ・ファイナル展に参加します。

ギャラリーレタラさんのファイナル展に参加します。

今まで2度の個展と、2+2北海道光州交流展に参加させて頂いた、札幌市円山にあるギャラリーレタラさん。今回で最後の展覧会になるそうです。

たくさんお世話になり、思い出のいっぱいあるレタラさんが閉まってしまうのは本当に寂しいけれど、ファイナル展はレタラゆかりの作家さん63名の作品が集るにぎやかなものになりそうですよ。

私は木版画一点展示させて頂きます。

お近くの方はぜひ!

ギャラリーレタラ・ファイナル

2022年12月7日(水)~12月25日(日)

12:00~18:00

火曜日定休 最終日16:00まで

ギャラリーレタラ
札幌市中央区北一条西28丁目2-35 MOMA place 3F