香港で感じた事。

6月、香港のquiet galleryにて個展を開くことができました。
バタバタしていてなかなかまとめられずにいましたが、感じたことなど書いていきます

2022年に那須の大黒屋さんで個展を行った時に本当に偶然のように紹介して頂いたQuiet GalleryのLeeさん。
その時お声がけ頂いてからついに今年、実現までこぎつけることができました。

日本で展示するよりも考えたりわからない事も多かったけれど、多くの方々のサポートを得て無事にこのプロジェクトを終えることができました。
Leeさんはじめ、お世話になったギャラリースタッフの皆様、お越しくださったお客様方には本当に感謝の気持ちでいっぱいです!心から、ありがとうございました。
もちろん日本で支えてくれた皆様方にも!


この展示を通してたくさんの方に出会い、学びを得たことが、私にとって本当に財産だといます。


○場所と作品
今回香港で展示させて頂くことができ、プレオープンの日にお客様に感想を頂いた中で気づいたことは、どの場所で飾ってもそれぞれの場所なりに作品はちゃんと見た人に届くんだなという事でもありました。

直前にホームである中標津の東一条ギャラリーで、または長野の朝日村BLUE HOUSE STUDIOで展示した時は、お客さんと牛そのものの思い出や、牛の話になることが多く、それはそれでとても楽しいのですが、当然香港ではあまりそういう話にはならず(日本語の堪能な通訳さんに聞いたところによると、香港でもはずれの方には普通に今でも牛はいるらしい、が多分乳用種ではないでしょう)。
ただ作品そのものの力や、技術をそのまま感じて、感銘を受けてくださっているのがとてもありがたく、嬉しい事でした。

香港の街をあるくと日本の食品や飲み物、お菓子はとてもよくみかけたので、もしかしたら作品に描かれた私の身近な牛たちの乳を使った製品も、知らぬ間に香港まで届いているのかもと思いました。海を越え国をまたいでも、「牛」というテーマはきっと身近なものなのでしょう。実際香港ではミルクティーはとてもポピュラーな飲み物であるようだったし、牛の絵の描いてあるティーカップは香港の喫茶店のような店では定番でした(お土産にそのカップを買いました)


○場所と文化
下見、搬入、搬出と、今回3回香港に行くこととなりました。
香港やアジアの国の文化については本当に恥ずかしながら不勉強でありました。
最初の一回(2022年)は下見以外は有名な観光地へ行き、今回は作業の合間に香港故宮博物院や、お寺や市場やただ公園をぶらぶらしたり、というようにのんびり過ごすことができました。
ギャラリーのあった観塘は、観光地というよりビジネス街だったので、香港人の普通の生活がよりダイレクトに感じられた気がしました。
ギャラリーの方々に私一人では行けないに違いない、伝統的な飲茶レストランや、にぎやかな下町の大衆食堂に連れて行っていただいたり、その時に歩いたビルの隙間の道、香港人しか知らない香港も垣間見させてもらう事もできました。

これは長野に行った時も思ったことなのですが、日本だろうと他のどの国だろうと、その土地その土地に固有の歴史があり、産業があり、人々の暮らしがある。
お寺があったり漢字を使っていたりそもそも人々の顔かたちが私たちと似ていたり、アメリカやヨーロッパなどよりずっと日本と共通点の多い香港。
でも全然違う文化がそこにあり、そこで生活を営む人々がいる。
文字にしてみたら馬鹿みたいに当たり前の事が、初めてちゃんと感じられたような、それは私にとって、まさにカルチャーショックというようなものでした。

自国と明らかな連続性が感じられる、豊かな異文化がここにあり、きっとそれは香港以外でもきっと他のアジアの国に行くたびに感じるのだろう。
そう考えると今まで知っていると思っていた「世界」が急によりカラフルに色鮮やかに感じられるような気がしたのです。

キラキラしたビルの谷間の、広東語しか聞こえてこない大衆食堂で日本では考えらないようなタイトな相席で地元の人や観光客に交じって牛乳プリンを食べて、かなりアナログな方式の伝票をもらって会計した時。古い空港跡地の高層ビルを遠景に観塘の海辺の公園で南国の木々に聞き慣れない鳥の声を聞きながら太極拳みたいな体操するおばさんやランニングする若者を眺めていた時。
ああ、この「違い」こそが世界の豊かさなのではないか、となんだか胸を突かれるような思いがしたのでした。

北海道に帰ってきて、前よりインバウンドの観光客の話す言葉が気になるようになりました。私の耳ではまだはっきり判別できませんが、広東語かな北京語かな台湾語?どこから来たのかな?とか。日本みたいにほぼ日本語しか通じない場所では不自由も多いだろうなとか(自分がさんざん苦労したので)。私が香港で外国人だった間、本当に一つも嫌な目に合わず、みんなダイナミックに親切だった事を思い出しながら。

私は今回の経験を経て、もっと香港や近くの国々の歴史や文化を勉強しようと心に決めました。

香港が本当に大好きになったので、絶対にまた行きたい。
まだ知りたい事、食べてみたいもの、たくさんありすぎる。
帰りにリサーチと奈良美智さんの展示を見に寄った台湾もとても良かった。
どちらでも日本のプロダクトへの信頼とか日本文化への親しみをひしひしと感じました。

彼らの信頼を裏切らない、この国でありますように。私もこの国に生きる1人として、日々考え続けていきたいと思いました。

どの国のどんな文化の人も平和に生きられる世の中でありますように!!


以下搬出の時の記録を少し

香港のマツモトキヨシで再会する北見
ビルのすきま
パステルカラーのアパートメント。香港人の暮らし。
すごい近代的なのに足場が竹なのが逆に凄いと思う
ダイレクトな感じの市場のお肉やさん。香港めちゃくちゃハイテクなところとこういう昔ながらの場所が混ざってるのが面白い。
八百屋さん、カラフル!ドリアン食べる勇気なかった。
牛カップ、コールドバージョン。パイナップルパンと。
観塘のホテルから見た100万ドルの夜景。お部屋アップグレードしてくれてた!
並んで食べたこの牛乳プリンが美味しかったんだよなあ…また食べたい。
大館。暑かったけど、素敵なところだった。なぜか河原温展をやっておりそこで涼んだ(すごく面白かった)
香港を後にし、リサーチおよび奈良美智さんの展示を見に台湾へ!
このメインの作品が本当に素晴らしかった。ずっと見ていたかった。
会場の台湾電力金水基地からの窓から。金瓜石のロケーションも最高で、お客さんもみんな楽しそうでした。
故宮博物院で白菜も見ました(豚肉は出張中だった)!台湾も絶対また行きたい!

香港Quiet Galleryでの個展がスタートしました。

香港Quiet Galleryでの個展が、6月7日からスタートしました。
心の師と仰いでいる先輩からQuiet GalleryのHoward Leeさんをご紹介頂いてから数年の準備期間を経て、ようやくこの展示が実現しました。

香港のこの素晴らしいギャラリーで個展を開催できたこと、とても嬉しく、誇りに思います。
この展示の開催に向けて心を配って下さった皆様に、心から感謝致します!

準備するにあたって、作品の発送などわからない事だらけ、ベルリンの時と違って日本語を使わないやり取り、搬入で現地に行くまで本当に香港で展示するのか…とどこか実感がわかぬままでした。
そんな中Quiet Galleryの皆様は本当に親切で仕事も丁寧かつスピーディー。多くの場面で大変助けて頂き、素晴らしい展示に仕上げていただきました!
プレオープンの日にはたくさんのお客様にご来場いただき、作品にもあたたかいお言葉を頂きました。
正直初めての経験ばかりでずっと緊張しておりましたが、最終日、空港に向かうスターフェリーに乗って晴れ渡る夏の香港の景色を眺めながら、ようやく自分がこの場所で展示できたことを実感し、胸がいっぱいになりました。
新作一点は発送に間に合わず、カルトンバッグに入れて飛行機で一緒に持っていきました。ギリギリまで制作することになってしまいましたが、なんとか間に合ってよかったです。

下見の初訪問から今回が2度目の香港。
私がつたない英語で質問しても皆さん親切で、食べ物も最高に美味しくて、異文化ながらなんだか懐かしいような、大都会と親しみやすさが同居した、温かい香港が大好きです。
滞在中ずっと耳にした響きが美しい広東語も少し勉強したいし、香港の事をもっと知りたいと思いました。
最終日6月22日まで、どうぞよろしくお願い致します。

My solo exhibition at Quiet Gallery in Hong Kong officially opened on June 7.

It has been several years since a senior artist I deeply admire introduced me to Mr. Howard Lee of Quiet Gallery, and after a long period of preparation, the exhibition has finally come to life.
I’m truly happy and proud to have held a solo exhibition at this wonderful gallery in Hong Kong.
My heartfelt thanks go to everyone who supported and cared for this exhibition to make it happen!

From arranging international shipping to handling all communication in English—unlike my previous show in Berlin where I could use Japanese—Everything felt a little surreal until I finally arrived in Hong Kong for the installation—it was hard to believe it was actually happening.

But the team at Quiet Gallery was incredibly kind, efficient, and attentive throughout the process. Their support helped me tremendously, and they created a beautiful exhibition space. I’m truly grateful.

Many guests visited during the pre-opening, and I was deeply touched by the warm and generous feedback on my works.

To be honest, everything about this experience was new to me, and I was nervous the entire time. But on the last day, as I rode the Star Ferry toward the airport and looked out over the sunlit summer landscape of Hong Kong, it finally sank in—I had really exhibited here. My heart was full.

One of my new pieces didn’t make it in time to ship, so I packed it in a carton bag and brought it on the plane myself. As always, I was working until the very last moment, but I’m so glad it made it in time.

This was my second visit to Hong Kong since my initial trip for a preview.
Even when I asked questions in my clumsy English, everyone was kind and helpful. The food was absolutely amazing, and despite the cultural differences, Hong Kong felt strangely familiar—a warm city where urban energy and friendliness coexist. I’ve truly fallen in love with it.

The beautiful sound of Cantonese, which I heard throughout my stay, also left a strong impression on me. I’d love to start learning it and get to know more about this wonderful place.

The exhibition runs until June 22. I hope many of you will have the chance to visit!

“The Quiet Life of a Cow”
Miho Tomita Solo Exhibition
Exhibition period: 2025.06.07 – 22
Opening hours |
Wed – Fri 13:00 – 19:00
Sat & Sun 12:00 – 18:00
Monday, Tuesday (Closed)
Quiet Gallery HK
32/F, Gravity, No.29 Hing Yip Street,
Kwun Tong, Kowloon, Hong Kong


Quiet Galleryの入り口。この英文タイトルは私の作品をずっと知ってくれている英語のできる友人に考えてもらいました。
今回は制作過程の動画も会場で流しています。主な撮影と編集は夫にお願いしました。
担いで行った新作「1180」
gravityビル入り口。観塘は香港の中でもクリエイティブなエリアとして最近注目されているのだそう
ギャラリーのあるフロアからの眺め。これが…香港…!
この大作を広げる作業をいろんな場所でしてきましたが、香港でする日が来るとは感無量でした。
空き時間に行った寺院、黄大仙。地元の方々にまじって見よう見まねでお参りしてきました。
香港故宮文化博物館。隣の国の歴史と文化、似ているところもあれば違うところもあり…とっても勉強になりました。
飲茶!!!
ピータン粥
ワンタン麺。日本にはない感じの麺。大好き。この芥藍という野菜がとっても美味しかった!
メニューが読めず当てずっぽうで頼んだスイーツ。ショウガとサツマイモ。
自分へのお土産はこのカップです。
観塘のサンセット。
帰りのスターフェリー。のんびりした空気につつまれて、しみじみ、あ~~今香港にいるんだなあと実感した瞬間でした
ギャラリースタッフさんにとって頂きました。どこでもピースする中年女性。

東一条ギャラリー、「牛の瞬き」展終了しました。

5月18日をもちまして、東一条ギャラリーで開催して頂いた、冨田美穂 牛版画展ー牛の瞬きー無事に会期終了致しました。

思えば大学卒業後北海道に来て、作品を佐伯農場荒川版画美術館に飾ってもらってから初めて個展という形で展覧会をさせて頂いたのが、2010年当時できたばかりだった東一条ギャラリーさんでした。佐伯農場の佐伯雅視さんが古い商店をリノベーションして、羅臼のステンドグラス作家の浅沼久美子さんが中心になって企画運営してきたこちらのギャラリーにはいままで本当にお世話になってきました。

2010年の最初の個展の時、酪農ヘルパーでフルタイムで働きながらできる時間で作った「388全身図」。ギャラリーの狭い階段をなんとかすり抜けて、122㎝角の大きな作品をあのステンドグラスとしっくい壁の暖かい空間に飾った時の誇らしさを今でも思い出すことができます。

あれから15年の時が過ぎて、小品展やグループ展の参加は毎年のようにさせて頂いていましたが、大作を含む新作メインの個展をこの場所で本当に久しぶりに開催させていただきました。

2010年の時よりずっとたくさんのお客様においでいただき、本当に15年でずいぶんたくさんの方に私の作品を知っていただいた事に感謝の気持ちでいっぱいでした。
近隣の町々や、本当にびっくりするほど遠くからわざわざ見に来ていらっしゃった方もいらしたり。
ジェネティクス北海道さんの「サイア」で宣伝して頂いた効果も絶大で、たくさんの酪農家さん、酪農関係者の方々にお越しいただき、「いつもサイアを楽しみにしているよ」と言って頂いたり、牛の事をいろいろお話したり、本当に続けてきて良かったと思えたし、嬉しかったです。
また常連のアート好きな地元の方に専門的な質問をしてもらったりする時間も貴重なものでした。

また今回は、ギャラリーの入り口が階段であることで、お越し頂けなかった方が私が知っているだけで2組いらっしゃいました。
せっかく楽しみにしていただいていたのに本当に申し訳なかったです。
今までここで展示した時よりずっとたくさんの方に知って頂いた事、ありがたいと同時に展示する場所によって見られない方がいることまで思い至らなかった事に反省もしました。
今回は私にとって大切な場所である東一条ギャラリーで再び展示ができた事は、ひとつのターニングポイントだったように思います。
また道東でバリアフリーでどんな人でもアクセスできる場所でも展示できるよう、続けて考えていきたいと思います。

私にとってはホームであるこの場所で再び個展を開くことができて本当に、有難かったです。
また何かここでしかできないおもしろいアイディアが浮かんだ時、戻って来れたらと思います!

この展覧会を見に来て下さった皆様、気にしてくださった皆様、お世話になった東一条ギャラリーの浅沼さん、佐伯農場の佐伯さん、在廊をお手伝い頂いたお二方、本当にありがとうございました。
そして改めて、いつも快く送り出して下さる職場の皆さん、支えてくれる家族にも。心からありがとうございました。

この地で生活し、制作し続けてきた15年を糧にまた、続けていきたいと思います。


最後にタイトルの「牛の瞬き」について。

牛の作品を作り始めてから23年ほどの間に作ってきた作品を振り返った時、すごく覚えている牛もいれば、どんな牛か忘れてしまった牛もいました。そして描いてきたほとんどの牛はもうこの世になく、私ももうすっかり若者ではなくなり、身近な子供たちはすっかり大人になり、世の中もずいぶん変わったように思います。
彫っている時の永遠に続くような時間、彫られた牛の面影がしばしこの世に残っていくこと、でもやっぱり生身の身体は本当にあっという間に交代していく、その本当にある意味一瞬のような、でも確かにゆるぎなくそこにあった命を、たとえ忘れてしまうとしても、無駄かもしれなくても、記していくことが私の人生なんだな、などという考えが去来した上でのタイトルでした。まばたきのような一瞬とも、記憶や遺伝子や物質などを受け継ぎながらこの先もずっと続いていくともいえるような私たちの命。
この先もずっと制作を続けていったら、また15年後、どんな作品群が生まれて、どんな意味を持つのか、それが自分でも楽しみだな、と今は思っています。

新作の1305正面図
手前の作品も新作の1715
ステンドグラスの扉と
今回は一日一牛も展示しました
佐伯農場グッズも置かせてもらいました
暖かい光の室内
入り口に飾っていたのは学生の頃作った木口木版、私が牛を好きになるきっかけの牛620
ありがとう!

「いのちをうつす―菌類、植物、動物、人間」展、会期終了しました。

新作の891全身図。

1月8日、東京都美術館で開催されていた「いのちをうつすー菌類、植物、動物、人間」展が閉幕致しました。

会期中、約2万人ものお客様に足をお運び頂きました。

まさかこんなにたくさんの方に来て頂けるとは、びっくりです!
上野というみんなが来やすい場所で、東京都美術館という親しみやすい場所で、作品を展示できたことに感謝の気持ちでいっぱいです。

描かれた生き物たちの姿をとおして、人間とはなにか改めて問われるような、この素晴らしい展覧会に参加できて、心から光栄でした。

お越しくださった皆様、応援してくださった皆様、いのちをうつす展の参加作家の皆様、お世話になった都美術館の皆様、ミュージアムショップの皆様、対談に快く応じて下さった遠藤秀紀先生、モデルになってくれた牛たち、職場の皆様、本当に本当にありがとうございました。

今年はもう企画の展示はなくて、いつもの荒川版画美術館、網走市立美術館常設展、ワタシノでの展示のみになる予定です。

来年以降の展示に向け、今年はひたすら制作する一年になります。

ここで本当にたくさんの方に見て頂けた事を励みに、精進していきます!

今年の荒川版画美術館の作品展示が終了しました。

2023年の荒川版画美術館の私の作品展示は終了しました。
また来年の春に!
レストラン牧舎は12月25に日まで営業していますよ~。

また、東一条ギャラリーの冬至祭も終了致しました。
温かく、楽しい展示でした。来て下さった方、ギャラリーのお二人、ありがとうございました。

雪が積もった荒川版画美術館。
東一条ギャラリーの展示風景。グッズなど展示して頂きました。

いのちをうつす展、会期残りわずかになりました。

ついこの間始まったと思っていたのですが、あっという間に「いのちをうつす」展の会期が残り僅かとなっております。
年内は12月19、20日の2日間、21日から1月3日まで美術館が休館になりまして、年が明けて1月4日~8日まで。年末年始のお休みが長いので、数えてみたら残りの開催日は7日間ですね。

バタバタしていて展覧会自体の感想を書けていなかったので。

対象物への愛と好奇心、それに冷静な観察眼が描き出す作品たちは見応えたっぷりで、本当にゆっくり時間をかけてみてほしい展覧会になっております。

小林路子さんのきのこの絵が使われたエントランスのポスター

会場のエスカレーターを下りて、すぐ目に入るのは小林路子さんのきのこの絵画。
都内出身の小林さんは、本の仕事で偶然きのこに出会ったとの事。
繊細に描かれたきのこと、生えている環境の落ち葉や木の肌、時には虫たち。
それに一つの絵ごとに添えられた小林さんの文章がとても秀逸なのです。
基本描かれたきのこの説明なのですが、きのこに魅せられ観察し、そのきのこを追い、時には口にし、よくよく知る人ならではのユーモアがにじんだ文章についクスっとさせられてしまいます。
それにしても、世の中にはなんと豊かなきのこの世界があることか。
たまにみかけるきのこから、見たこともないような不思議なかたちのきのこ、身近なシイタケまで…。見とれたり感心したりしながらあっという間に時間が過ぎていきます。

小林さんのきのこと並行して展示されているのが、内山春雄さんのバードカービング。
本物そっくりに彫られた小鳥やライチョウたち。
実は野鳥って身近なわりに、あまり近くでまじまじと見る機会ってないですよね。スズメですら。鳥ってこんな形で、こんな風に羽が重なっているのか…それに何より鳥がカワイイ。
たまたま一緒に見ていたお客さんの親子も「可愛い可愛い」言いながら見ておりました。
奥に進むともっと大きな鳥の彫刻が。これはなんと、「デコイ」なんだそう。
恥ずかしながら初めて知りましたが、実際にこの彫刻を増やして自然環境に置いて、その鳥が仲間がいると間違って来ることで、よりよい環境に移ってもらったり、そういう目的で使用されたのだそうです(調べてみたら昔は猟のおとりとして使われたそうですね)。
アホウドリ、こんなに大きいんだなあ…。
アホウドリの乱獲の話をそういえば川﨑秋子さんの小説で読んで大変衝撃を受けたのですが、その後デコイなども使って保護が行われていたと知りなんだかほっとしました。
トキなどの珍しい鳥も、こうしてリアルにバードカービングにしてもらう事で、すごく身近に感じることができて、なんだか嬉しかったです。
内山さんの作品はまだあるのですが、展示順に紹介していこうと思いますので、また後程。

内山さんのデコイと一緒に展示されているのが、辻永さんの植物画です。
和紙に描かれた繊細な植物画。
直接筆で描かれた線を見ていると、本当にずっと植物を見て、よく描いていたんだろうという事が伝わってきます。なにより植物が好きだったであろうことも。
辻さんは1884年生まれ。1974年に亡くなっています。
15歳から植物を描き始め、植物学者になるか迷った事もあったそう。
そこいらに生えている雑草も、旅先の珍しい植物も、同じ目線で丁寧に描かれた絵は、等しく尊い植物たちの姿形をはっきりと私たちの目に知覚させてくれるようでした。
辻さんは弟さんと渋谷で山羊園をされていた時期があるそうで、その時期は山羊の油絵を描き、山羊の画家と呼ばれていたこともあったそう。
山羊の油絵も2点飾られていましたが、自然の光の中でのびのびと暮らす山羊たちが優しい色彩で描かれていて、それもすごく好きでした。

いのちをうつす展図録のカバーは辻永さんの植物画をレイアウトしたもの。色は薄く溶いた油絵具だそう。

そしてエスカレーターをもう一段下りたフロア。
最初に目に入るのは「いのちをうつす」展のメインビジュアルにもなっている今井壽恵さんの写真です。
美しい競走馬たちの肖像。
牧場で、晴れの舞台で、全身の筋肉を躍動させて走る馬たちの姿を幻想的なタッチで描き出す今井壽恵さんの写真は、馬というものをまた新しい視点から見せてくれた気がします。
私自身は意外と馬との密接な接点はなく、あまり馬の事はよくわからないのですが、その気高いともいえる立ち姿に、多くの人が魅せられるのもわかるな…と思いました。
それとこの一瞬の姿をとらえ、フィルムの加工で現実ならざる背景と共にある馬たちのなんとも言えない存在感は本当に独特で、印象に残る写真たちです。
今井さんは写真家として活動し始めてから、交通事故にあい、一時期視力を失ったとか。その回復してきた頃に映画で「アラビアのロレンス」を見て、そこに映る馬の姿に魅せられたのだそうです。人生のテーマとの出会いは、突然に訪れる。

今井壽恵さんの作品「対称」

その馬たちの奥に、恐縮ながら私の作品の牛たちがいて、その向こうにいるのが(居る、と言いたくなります)阿部知暁さんのゴリラの絵画たち。
まさにゴリラたちの肖像画というべき、大きな正方形のキャンバスに、ちゃんと名前の付いた個性豊かなゴリラたちが描かれています。
驚いたのは、ゴリラの姿形の個体差!当たり前と言えば当たり前の話ですが、みんなしっかり顔も体型も違うんですよね。
人間だって牛だって違うんだから、ゴリラだって違うのは当然ですが、知らない事というのは本当に解像度が低いものですね。
各々の性格までにじみ出るような、個性的なゴリラたちの向かいに、絵本「ゴリラが胸をたたくわけ」(山際寿一・文 阿部知暁・絵)の原画が展示してあります。
この絵本がまたとても良いのです。程よい具合にデフォルメされたゴリラたちが活き活きと描かれていてとっても魅力的。
それに内容も素晴らしい…。いかにも怖そうな見た目、と誤解されがちなゴリラのなんとも賢く、好奇心に満ち、平和的な生態。
人間も、少しゴリラを見習った方がいいかもしれませんね…。
ちなみにこちらの絵本はミュージアムショップの方で販売されておりますよ!

阿部さんのゴリラを描くきっかけになったともいえる、上野動物園に最初に来たゴリラ「ブルブル」

そして最後にまた内山春雄さんの作品。
タッチカービングという、触ることができる白い鳥の彫刻がたくさん並んでいます。
そして、貸し出される機器で、それらの鳥たちの鳴き声も聞くことができます。
目の見えない方々はもちろん、私たちも鳥に触れる機会なんてめったにないですから、なでたり鳴き声をきいたりしているとあっという間に時間が過ぎていきます…!

内山春雄さんのタッチカービング作品。繊細な羽の重なりなどさわって確かめられるのは貴重な機会。

他の作家さんの作品を見たり、図録の文章を読んだりして、生涯をかけて追及したくなるようなテーマに出会えることのありがたさを改めて感じましたし、私ももっと続けていって、作品をどんどん蓄積していきたいと改めて思いました。

私が牛というテーマに出会ったのは、予備校時代から続けていた内面世界を描くような絵に限界を感じていた時でした。世の中の幻想的な絵画に憧れ、真似をしてみたものの、私の内面にそんな作家たちの描くような世界は無かったと、気が付くのに3年くらいかかってしまいましたね。
ワンダーフォーゲル部で登山を続けるうちに、ただそこにある自然(自分の身体も含め)が実はとても観察のしがいのある、世界を知るための第一歩ではと思うようになりました。
山頂から見る、宇宙とつながっているような広々とした世界の一部である自分、という感覚が生まれた時に牛に出会い、牛という一つの動物を描く事もまた意味のある事であるように感じました。
きのこの小林さんもゴリラの阿部さんも、幻想的な絵画を描いていたところから一つのテーマを追求するに至ったと書いてあり、ちょっと共通しているな、と思いました。不思議ですね。
他の作家さんたちともゆっくりお話ししてみたかったです。

同時開催の「動物園にて」展もすごく興味深いので、ぜひ見て頂きたいです!
上野動物園ができた経緯や、戦争中の動物園の話など、普段意識していなかった動物園の歴史に触れ、動物と人間の関係性に思いを馳せることのできる展覧会となっています。

なごり惜しいですが、残りの会期、作品たちが皆様に見て頂けますように。







東京都美術館「いのちをうつす―菌類、植物、動物、人間」展始まりました

11月16日から、東京都美術館にて上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつすー菌類、植物、動物、人間」が始まりました。

上野公園内、上野動物園のお隣の東京都美術館。大きな企画展が行われている展示室の入り口の右手側に入り口があります(公募展の展示室もたくさんあるので、迷われたときは係の方に聞いてみてくださいね)。

エスカレーターで地下に下りながら2フロアーに渡って展示室があります。

私の作品は一番下のギャラリーAという場所にあります。

今回の私の展示作品は10点。最新作「891全身図」は阿部知暁さんのゴリラの作品の奥にありますよ…!

なんとか間に合いました…!黒々と、大きな牛です。

きのこの絵の小林路子さん、植物画の辻永さん、バードカービングの内山春雄さん、馬の写真の今井壽恵さん、ゴリラの絵画の阿部知暁さん、どの作家さんの作品も対象に肉迫したものばかりで、とても見応えのある展覧会となっています。ゆっくり時間をもって観覧するのがお勧めです!
同時開催の「動物園にて」展も、日本の動物園の歴史、人と動物の関わりを振り返ることのできる大変興味深い展覧会となっております。

「いのちをうつす」展の図録もございます。嬉しいですね!
会場入り口で1800円で販売しております。私の展示作品10点も掲載されています。

ミュージアムショップでは、関連グッズも販売されています。
私の手ぬぐい、ポストカード、絵本「おかあさん牛からのおくりもの」も販売して頂いております!

11月18日には関連イベントとしまして「ウシと人間」というテーマで東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀先生と対談させていただきました。

私が一方的に先生のご著書「ウシの動物学」のファンであるという事でオファーさせて頂いたのですが…、正直なところ、私ごときで先生のお相手が務まるのかと、戦々恐々としておりました。事前に打ち合わせで先生の研究室を訪問させて頂き、とても気さくにお話させて頂いたので、ちょっとホッとしつつもやっぱり緊張して迎えた当日でした。

ひたすら遠藤先生にリードして頂いて、なんとか2時間のトークを終えることができました。
先生のユーモアを交えたお話に私も引きこまれつつ、慣れない私の話を引き出していただき、本当にありがたかったです…!
長年気になっていた牛の胸垂がなんのためにあるのかという質問もできました。それで半日講義できるとおっしゃっていた先生…その講義を本当に聞いてみたい。
様々な種類の動物の遺体と日々向き合っている先生のお話は大変に興味深く、絵を描く私と解剖学の、対象をよく見る、という共通点なども感じたり…。
牛の話、生物の話、家畜と人の関わりの話、人生の話など…いろいろなお話ができました。

正直に言うと緊張しすぎていてあまり話した内容を全部は覚えていないのですが、聞いてくださった方にはおおむね好評であったようなので、良かったです…!

遠藤秀紀先生、お忙しい中本当にありがとうございました。
そして会場に来て下さった皆様も、心からありがとうございました!
来場者の皆様があたたかく見守ってくださって、心強かったです。

そして遠藤先生はこのたびミステリー小説家としてデビューされます!
「人探し」
第44回小説推理新人賞受賞作 双葉社より12月20日刊行
https://www.futabasha.co.jp/book/97845752470390000000?type=1

知の巨人の好奇心は本当に計り知れないですね…絶対買って読みます!!

ちなみに今回遠藤先生の他の著作なども拝読し、先生の作られた標本がたくさんある国立科学博物館の常設展、40年ぶりに上野動物園にも行ってみました(遠藤先生は笹をつかむパンダの指の構造を発見された事でも有名です)。
人類を含めた地球上の生き物の進化の歴史と、動物をよくよく観察し、解剖し、生き物の形の不思議と歴史をひとつひとつ解き明かしてきた人類の自然科学の積み重ねに思いを馳せることができ、本当に良い機会になりました。

という事で、1月8日までの会期、どうぞよろしくお願い致します。https://www.tobikan.jp/exhibition/2023_uenoartistproject.html

企画展示室で開催中の「永遠の都ローマ展」は12月10日まで。
こちらも日本ではめったに見られないローマの名作が揃っています!
ローマ展にも興味のある方はお急ぎくださいね。

NorthPRINT-北海道の現代版画- 展会期終了しました。

NorthPRINT-北海道の現代版画- 展会期が無事に終了致しました。
会期中来て下さった皆様、お世話になった皆様、一緒に展覧会を作った作家の皆様に、改めて心からの感謝を申し上げます。
この展覧会が、少しでも版画表現の魅力を発見するきっかけになれていたなら嬉しいです!

札幌文化芸術交流センターSCARTS企画公募事業として、参加作家で企画から運営まで作り上げた展覧会でした。
北海道出身だったり、在住だったりする北海道に所縁のある版画作家たちのグループ展。
コロナ禍という事もあり、何度もzoom会議を行い諸々決めていき、大変ではありましたがこうして展覧会が完成してみると、本当に素晴らしい会場で、参加してよかったなとしみじみ思いました。
同じ版画というカテゴリーでも、こんなに表現の幅があり、可能性は無限だなという事を肌で感じ、また私は都会から離れてずっと一人で作業してきましたが、こんな風に同じジャンルで活動する作家さんと一緒に作品を並べた事は本当に刺激になりました。

SCARTSの会場設営のスタッフさんたちの技術を間近で見られたのもまた勉強になりましたね。

ここで得た感動をまた糧として、制作を引き続きがんばっていきたいです!

小品と、技法説明のコーナーもありました。
新作の木口木版画と、大作木版画の説明パネル
いつもポートフォリオに載せていたちょっと古い写真でしたが…

新作木口木版画
新作の木版画「1554」

2022年、ありがとうございました。

威勢よく餌を食べる牛

2022年もあっという間に大みそかになってしまいました。

今年は例年通りの荒川版画美術館での展示に始まり、那須の大黒屋さん、母校の武蔵野美術大学のgFAL、南区芸術祭にギャラリーレタラファイナル展、いつもの東一条ギャラリー小さな絵展、冬至祭。ずいぶんたくさんの作品を見ていただく機会に恵まれ、忙しくも本当にありがたい一年だったと思います。

お世話になった皆様、展示を見に来て下さった皆様、作品をご購入下さった皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!

来年はまたお知らせしますが、楽しみな展示も複数ございますので、また気合を入れて制作に励んでいきたいです。

今年は世の中的には大変な一年でしたが…どうか来年は、平和な一年になりますように。

年末年始は牛乳を飲みつつ、世界の平和を祈りたいと思います。

最後になってしまいましたが、無事会期終了したギャラリーレタラファイナル展の写真を。

2013年に、まだこちらに移住したてで何者でもない私の個展を開いてくださったレタラさん。

2回の個展と、2+2北海道・光州美術交流展2020にも参加させて頂きました。

レタラで本当にたくさんの出会いがあり、励まされる事ばかりでした。

たまに札幌に出かけた時に、レタラによって展覧会を見て、泉さんとお話するのもとても楽しみでした。

ギャラリーレタラの吉田さん、泉さん、本当にお世話になりました!!

ここで育てて頂いた恩を胸に、さらに精進していきたいと思います。

南区芸術祭2022会期終了しました。

9月25日、南区芸術祭の日程が無事終了いたしました。

お越しくださった皆様、南区芸術祭実行委員の皆様、本当にありがとうございました!

お話を頂いたのが那須と東京の展示が決まった後だったので、なかなか日程的に厳しくて会場にいることがほとんどできず、残念でしたが…。

他の作家さんたちの作品もとっても充実していて、とても素晴らしい芸術祭でした。

南区芸術祭に参加できたこと、エドウィン・ダン記念館で展示できたこと、誇らしいです!