3月28日、網走市立美術館での個展「国産牛100%冨田美穂展」が終了致しました。
本当にたくさんの方にお越しいただき、感謝の気持ちでいっぱいです!
大学時代の作品から、今年の新作まで、広い展示室にほぼ時系列に並べました。
普段作品を作っていて、このように全部並べるという事は無かったので、私自身にとっても今までの歩みを振り返る、またとない機会となりました。
成長したなあという部分もあり、昔の作品の勢いもよかったなあと思う部分もあったり。
今後またより牛の真に迫るような作品を作るべく、頑張っていきたいと改めて思いました。
見に来て下さった方々、遠くから応援してくださった方々、とってもお世話になった網走市立美術館の古道谷館長、職員の方々、職場の原田農場のみなさん、家族と友人たち、本当にありがとうございました!
おかげさまで素晴らしい展示にできたと思います。
では、以下で会場の作品の解説をざっとしていきますね。ちょっと長いですが、よかったらお付き合いください。
大学の2年生の冬休みに士幌町の牧場アルバイトで牛に出会い、牛を描こうと決めてから、大学3年生の春に学校に戻ると、あらかじめ選択していた版画コースの授業が始まりました。
要するに、牛との出会いと版画との出会いがほぼ同時だったのですね。
なので、私の牛の作品を振り返ると、それはほぼ自分の版画作品を振り返る事になります。
武蔵野美術大学の版画コースに入ってまず最初に、4種類の版画のやり方をお試しでやってみるのですが、その時の木版画作品。銅版画、石版画(リトグラフ)、シルクスクリーン、木版画を試して、自分に合った技法を選びます。私は上の作品を作って、木版画を選んだわけなので、ある意味運命の作品でした。
墨を刷毛で伸ばしてバレンで刷ってます。浮世絵的な水性の技法です。
今見るとなんだか至らない部分も多いですが、初めてちゃんと作った木版画なので、記念すべき作品です。このころから三角刀で毛を彫ること自体は変わっていないのですね。
木版画を選択してから作った作品。
かなり大きめの牛の構図ですね。刷りはまだ水性なので、黒にムラがあります。彫ったところに墨が溜まってしまったり。耳の数字はシルクスクリーンという技法。
木版画コースの集中授業で作った木口木版画。
柘植などの硬い木材の木口(地面に水平方向の断面)に、銅版画で使うビュランという道具で彫って、それを油性のインクで薄い和紙である雁皮紙に刷って、厚い洋紙に貼り付けてあります。
木口木版画自体も今でも作りますが、この技法を応用して、大きな作品でも油性、雁皮刷りで、細かな彫りを生かせるようになりました。
そしてこれが大学4年生で、今の技法とほぼ同じになったころの作品。
版画用のシナベニヤに三角刀で彫り、薄く油性のインクを乗せて雁皮紙に刷って、パネルに水張りした台紙に張り付ける、という技法。
たいたい等身大の牛の顔です。
そしてこれが卒業制作。「620フォーエバー」という作品。
等身大の牛をベニヤ3枚分で表しました。
私が牛を好きになるきっかけになった、士幌で出会った620。
士幌で撮った写真をはがきサイズくらいに現像したものを頼りに彫ったので、今みるとよくそんな資料だけでここまで彫ったな、という気はしますね。勢いのある構図は今でも気に入っています。
そこから今までの作品をほぼ制作年順に並べてみました。
ここまで全部並べることも今まで無かったので、感無量!とともに、いろいろ考えることも多かったですね。この時のここは良かったとか、どうしてこうなった?とか。技法的な事もいろいろ振り返る機会にもなりました。
入り口付近に最近の大作を。右側、去年の夏作った「904全身図」はちょっと刷りがうまくいってない感じがしていたので、この機会に刷りなおしました。
左側の2018年作「701全身図」は卒業制作と同じ大きさ。この大きさが再び作れるようになるまで、ずいぶん時間がかかりましたね、卒業制作から14年!神田日勝記念美術館の個展の時に、神田日勝の作品に負けないようにと思って作った作品(おこがましいですが)。
入って右側の壁は、サイア原画や小木版画。これらはとても全部は並べられないので、だいぶ抜粋しました。自分が好きな作品を並べてみました。
サイア原画も今年で10年目にはいるので、もう55枚くらい描いている計算。ありがたい事ですね…!
実は牛100%じゃなく自画像もありました。
大学2年までは油絵学科だったので(私が在学中は油絵学科の途中で版画コースに分かれるようになっていました)、2年の進級制作で描いた、最後の油絵の自画像です。
振り返るとたいして絵もうまくないのに美大を目指した高校3年から浪人予備校時代ずーーっと油絵を描いて、いつの間にか大学に入ること自体が目的になって、入った大学では何を描いたらいいのかわからなくなってしまっていました。私はずっと内面世界を描いた絵にあこがれていたんですよね、ここにはその当時の絵は載せませんが、その時は今とかけ離れたちょっとシュールな感じの絵を描いたりしていました(今でも好きな画家というとルドンとかリヒャルト・エルツェを思い描いてしまいますし。一昨年ドイツでエルツェの作品を目の前にしたときはずっと見ていられる気がしたくらいで)。
大学のワンダーフォーゲル部で山に登ったりする中で、私には目の前に見えるものを描くことのほうが意味のある事なのではと思い始めて、次第に一番身近で確かなものである自分自身を描くことが多くなっていきました。
この油絵で、進級制作のコンクールで赤塚祐二先生の賞を頂けた事がとても嬉しくて。やっと自分の描いたものが人に認められたような気がしたのを覚えています。
目の前の現実に向き合う事、というのは、モチーフが牛になってからも変わっていないのかもしれません。生きているといろいろあるけれど、せっかく絵を描くなら、この見えている世界の美しさを描きたい、確かめたい、残しておきたい、という感覚で描いている気がします。
この絵を描いた後版画コースに進んだので、まったく油絵を描かなくなってしまいましたが、若いころ地道に描いた事や、表現の遠回りしたことも、きっと私の基礎になって今があるのかなと思います。
そんな風に自分の道半ばの画業を振り返る機会をここで頂けた事、本当にありがたいです。
長いこと描いてきて何より変わったのは、こんな私でも応援してくれる人がたくさんいることだと思います。
さて、この先個展はもう少し先になりますので、これをまた糧として、さらに良い作品を作るべく、挑戦していきたいです。
またいつか網走市立美術館で展示ができるときにはどんな作品ラインナップになっているか自分でも楽しみにしつつ。
今後の予定は4月下旬から佐伯農場荒川版画美術館の夏季展示が始まります。
夏にも一点札幌で展示の予定があります。
また詳細はこちらでお知らせいたしますね。