小品展、終了しました。板目、木口など木版画技法の説明も。

東一条ギャラリーでの、冨田美穂小品展、終了しました。
短い会期の間に、本当にたくさんの方にお越しいただきました。ありがとうございました!
今回は木口木版の刷りのデモンストレーションや、ワークショップなど新しい試みも行い、私としても大変勉強になりました。
会場の写真のあとに、刷りのデモンストレーションの捕捉も上げますので、ちょっと長くなりますが興味のある方は最後までご覧になってみて下さい。
会場の様子。



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新作の「946」。

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DMに使用した「サンちゃん2015」

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一日一牛。

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素敵な額をいただいたので、年賀状を入れてみました。

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酪農ジャーナルさんの連載も、額に入れて飾らせていただきました。

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せっかくなので、全共のポスターも。

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ポストカードも種類が増えました。
そして、今回は木口木版画の刷りのデモンストレーションを行いました。
その時の様子を、下記の東一条ギャラリーさんのブログで紹介していただいています。

http://e1gallery.blog129.fc2.com/blog-entry-617.html

展示をすると、よくどうやって作っているのですか?と質問されるのですが、なかなかうまく説明することもできないので、今回は実演をさせていただく事にしました。
皆さんの前で説明させてもらった事で私の中でもちゃんと言葉にして整理する事ができて、とても勉強になりました。
まず私の作品といえば大きな牛の版画だと思うのですが、それは「板目木版画」といつもキャプションには書いています。
今回の展示で言えば「946」です。
なぜあえて「板目」と表記するかと言うと、私の作品には同じ木版画でも「板目」と「木口」と「水性板目」の技法的には3種類あるからです。
「946」の版木。板目木版画。表面に墨とニスを塗って黒くしてあります。

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「サンちゃん2015」の版木。木口木版画。表面に墨を塗って黒くして彫っていきます。

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こうして版木を見るとわかると思うのですが、板目の版画は木の板目、地面に対して木を垂直に切った面を彫っています。いわゆる、普通のベニヤ板や棚板などに使うのと同じです。ちなみにこの版木は木版画用に作ってあるシナベニヤです。
それに対して木口木版画は、木を水平に切った面、年輪がそのまま見える輪切りの面をつやつやになるまで磨いてから彫っています。こちらは柘植の木。櫛などに使う堅い木です。
何が違うのかと言うと、木の堅さと、大きさです。
板目はベニヤ板なので、大きな作品も作る事ができます。
木口はとても堅いので、緻密な表現が可能ですし、版木もへたらないのでたくさんの数刷る事ができます。そのかわり、板目のような大きな作品を作るのは難しいです。板目のシナはやはり柘植の木口に比べるととても柔らかい素材と言えるので、木口ほど細かい表現はできませんし、版木も摩耗が早いです。
表面を黒く塗ってあるのは、黒い面に彫ったところに木の色が出るので、黒いインクで刷った時のイメージで彫り進めていく事ができるからです。
私の場合は、単純に小さい作品は木口、大きな作品は板目と使い分けていますが、大きな板目の牛を作るヒントになったのは、木口の授業で油性の雁皮刷りの技術を学んだ事でした。
使う道具も違ってきますので、以下に写真を載せます。

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板目木版画で私が使う道具。彫りには彫刻刀、特に三角刀を使って毛を彫っていきます。鼻や目の周りなど、毛の生えていないところには小さな浅丸刀を使います。
刷りにはかなりの力を要しますので、大きいボールバレンを使っています。

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木口木版画に使う道具。一番違うのは、彫りに彫刻刀ではなくビュランという道具を使う事です。
銅版画のエングレーヴィングという技法で使用するビュラン。金属である銅板を直接彫れる道具ですから、かなり堅いものでも彫れるわけですね。
私は牛しか彫っていないし、背景を落としてしまいますが、本来はビュランの線の細密なタッチで漆黒の画面に白い線を起こしていく、非常に幻想的な表現の多い技法です。ぜひ私以外の作家さんの作品も見てほしいです。
木口の版木をたとえば三角刀で彫る事もできなくはないですが、すぐに刃先がダメになってしまうでしょう。
逆にビュランでシナベニヤを彫ると、めくれてしまってうまく彫ることができません。
ビュランと、版木と、刷った雁皮紙。

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ビュランの刃先。

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違いは木と刀ですが、私の場合共通するところもあります。
それはインクと紙です。木口木版画を刷るのには、繊細な彫りが埋まってしまわないように、硬いインクを薄く丁寧に版木に重ねていく必要があります。そこで、非常に堅く粘りがあり乾きにくいインクであるリトグラフ(石版画)用の製版インクと、銅版画用のインクを混ぜて使います。
そして、厚手の紙にそのまま刷る事もできなくはないのですが、よほど力とコツを知らないと、バレンでこする時に、紙がすべってしまってうまく刷れません。
そこで、雁皮紙という非常に薄い和紙に刷ります。雁皮紙ほど薄くて丈夫な紙であれば、インクに紙がしっかりと密着して、ずれずに刷る事ができます。
雁皮紙に刷ったものを、厚手の版画用紙などに張り付けて、完成となります。
946を刷った雁皮紙。

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刷った雁皮紙を水張りした和紙(麻紙)に貼り込みます。

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学生時代に、「木版画で牛を作る」というテーマを見つけたばかりであった私には、この木口の雁皮刷りの技法が大いに参考になりました。
実物大の牛を作りたかったので、版木はシナベニヤにして、刷りについては木口のやり方を応用する事で、繊細な彫りで大きな作品を作る事が可能になりました。
もちろん、先生方や助手さんたちにたくさん相談に乗っていただいて、試行錯誤の末たどりついた技法であると言えます。
板目の大きい作品は、とにかくバレンでの刷りが大変なのと、雁皮紙を大きな和紙に貼り付けるのもなかなかの大仕事であります。
これもいつの日か記録にとって説明できればいいですね。
あとは、最近では「ナラちゃん」や「785」「青チョッキの白ちゃん」などの、カラーの木版画はまた違った技法になるのです。
板目の版木と彫刻刀というのは変わりませんが、刷りが絵の具と水を使います。いわゆる「浮世絵」に通じる技法です。
いままで説明した「板目」「木口」はどちらも油性のインクを使うので、これまた全然道具が違ってきてしまうのですね。
長くなるので、こちらはまた別の機会に説明しようと思います。
慣れない説明はたして伝わったでしょうか…。また実演などして直接説明する機会も作れたらと思います。
いやー木版画って奥が深いですね。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます!